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2016/11/04

僕が美術館をどのような順路でまわるかの話

 僕の夜勤と休日出勤のあおりを受けて、家族が実家に避難しているため、久しぶりに一人で過ごす休みの日に、国立近代美術館で開催中の「トーマス・ルフ展」を観に行きました。
 この機会に僕の写真展・美術展の鑑賞方法を以下に記載したいと思います。(前もどこかに書いたような気がしないでもないですが。)
 最初のうちは律儀に順路通り、順番通りに作品を観ていましたが、最近は以下のスタイルに落ち着いています。
 

  1. 開場の初めから終わりまで、ざっと全体を観て回る。
  2. 入口に戻りながら、好きな作品があれば足を止めて、好きな理由を考える。
  3. キャプションを読みながら順番に観る。

 以下、順番に詳細を記載します。
 手順1で、全体ボリュームを把握し、ペース配分を考えます。美術鑑賞は静かな行為ですが、1時間以上歩き通しで、腰をかがめたりする動作もあります。これはもはや太極拳レベルと言って良いでしょう。休憩できる場所も確認しておいて、一気に見通すのか、どこかで休憩を挟むのかを考えます。
 また、このときに手順2につながる自分の好きな作品にアタリをつけ、場所を把握しておきます。

 手順2では、自分の好きな作品をじっくり鑑賞します。展覧会には多くの作品が展示されていますが、自分の感性に合うかどうかは、作品により差があると思います。なるべく自分に合う作品に時間を多く割くようにしたいものです。
 そして、自分好みの作品については、単に「好き」で終わるのではなく、その理由を考えます。つまり自分の「好き」を因数分解することで、自分の価値観を見直そうという試みです。「好き」というのは感覚的なもので、それを論理で後づけすることに、味気なさを感じる人もいるかもしれません。
 ですが、美術鑑賞は、作品を観ているようでいて、その作品に反応する自分自身を観ているというのが、僕の考えです。優れた作品は、鑑賞者の趣味嗜好、価値観に新たな角度から光を当ててくれます。

 手順3では、キャプションから知識を得ることで、作品を捉え直します。手順2で自分の感性を基準にして作品を受け取ることも大切だと思いますが、キャプションから作品の背景や意図を知ることも同じくらい重要です。
 高校時代、世界史の野村先生が「"花が咲いているな"と感じるよりも、"ジンチョウゲが咲いているな"と感じたほうが人生が豊かになる。」と言っていました。当時の僕は「世界史関係ないな」と思うばかりでしたが、今にして思えば、そのとおりだと思います。
 「トーマス・ルフ展」で言えば、「Zeitungsfotos」というシリーズについて、手順2で眺めたときは、「面白い構図のものがあるな」と思っていました。その後、解説を読むと、以下の記載があります。
新聞や週刊誌に掲載される写真には、通常、説明のための言葉が付けられていますが、ルフは、自ら収集した掲載写真からすべての文字要素を取り除き、画像のみを原寸幅の倍に引き伸ばしています。画像が本来の機能や文脈から切り離されたとき、私たちはその画像をどのように「読む」ことができるのでしょうか。 -- works 05 Zeitungsfotos | Thomas Ruff
 つまりこれは、トーマス・ルフ自身が撮影したものではなく、新聞の切り抜きを引き伸ばしたものでした。きっとこの写真を紙面で目にしていたとしたら、特に気にすることもなく流し見ていたことでしょう。それが展覧会という場で額に収められていると、僕自身はそれに作品としての価値を見出そうとしています。こういった面白みについては、キャプションから知識を得ないと気づくことができないものです。
 
 以上が、僕の鑑賞方法です。手順4として、「ミュージアムショップで手ぬぐいが売っていたら買う」というものがありますが、今回は割愛します。