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2010/09/06

トルコ旅行記(1/6)|イスタンブール。夜行バス。


 スーツ姿で旅行用のバックパックを背負う変な人のことを「フォーマルバックパッカー」と言う。
 と言うのは嘘だけれど、僕はいつも以上に手につかなかった仕事を蹴り飛ばして、スーツ姿のままでバックパックを背負い、歩いている。
 8月の、金曜日の夕方。多くのサラリーマンが居酒屋へと突き進むなかで、僕はトルコのイスタンブールヘ向けて、その歩を進めていた。

 完璧だったはずの準備は、ほころびが一つ。
 旅行に現金をあまり持っていかない主義の僕にとって、海外のATMが利用できる新生銀行のカードは生命線である。
 よりによってそれを忘れたので、母親に電話して、途中の駅まで届けてもらう。ありがとう。あなたの息子でよかった。

 日暮里からイブニングライナーで成田空港へ。
 エミレーツ航空のチェックインカウンターで手続きをする。前日の夜にオンラインでチェックインしていたので、パスポートとEチケットのチェックのみ。
 行列を尻目にスムーズに進むことができた代償として、チケットが発行されない。自前のプリントアウトのみで、旅情に欠ける。(プリントアウトを持参しない場合は、発券される)
 搭乗ゲートに向かう前にフォーマルバックパッカーを卒業。トイレで着替えるて、Yシャツとスラックスと革靴から、ワークシャツとジーンズとスニーカー姿に。
 スーツ類は空港の郵便局からゆうパックで自宅に送る。明後日着かつ送料700円は高すぎる。高校生のときに年賀状配達のバイトをしていたコネを活かすことはできなかったのが悔やまれる。

 手荷物検査場へ向かう。パスポートとEチケットを見せるが、紙切れ一枚のチケットに戸惑う係員。
 「これ、一人分?」
 なぜかタメ口で聞かれた。
 手荷物検査場で、お肌が弱い僕のアフターシェーブローションが没収される。今さら容器の容量を間違える凡ミス。旅慣れたと思ったときが一番危ない。現にキャッシュカードを忘れている。
 順調に荷物を減らしつつ、いよいよ飛行機へ。まずは大富豪と子供連れから搭乗。そしてエコノミーの後列から、前列へと続く。エコノミーに開放された途端に長蛇の列ができるけれど、焦って並んではいけない。
 文明の衝突が起きる搭乗ゲートで綺麗な列が保持されるはずはない。ゆっくりと状況を見極めて、「列」と「割り込み」の中間ぐらいの短い列に加わるのが得策。
 窓側20A席に座る。フライトまで、『トルコのもう一つの顔』を読む。著者の小島剛一が相当に面白いので、是非一読をおすすめしたい。
 経由地のドバイまでは約10時間。予定では"THIS IS IT"を3回観て過ごすつもりだったけれど、プログラムにない。仕方がないので、"Alice in Wonderland"を観る。そう、僕もトルコというワンダーランドに向かっているのだ。僕自身は谷村新司がいるほうのアリスに近いおっさんだけれども。
 "Alice in Wonderland"の他にめぼしい映画がなかったので、音楽チャンネルへ。黄金の90年代J-POPを聞きながら就寝。なぜかメインのアーティストが深田恭子だった。


 現地時間の午前3時にドバイ到着。乗継ぎまで8時間もある。
 ドバイ国際空港の第3ターミナルを端から端まで歩き、シャワー室で歯を磨き、ひげを剃る。僕のアフターシェーブローションは元気にしているだろうか。
 エミレーツ航空の無料ビュッフェが午前6時に開くので、それまで日記をつける。


 エミレーツ航空の無料ビュッフェは、国際線出発ロビーの階段を上がった、中2階のような場所にある。営業時間は朝・昼・晩の3回に分けた、大体4時間ずつ。
 利用の条件は「トランジットの待ち時間が4時間以上であること」とネットのクチコミに書いてあったけれど、実際のところはどうなのかわからない。いずれにせよ、ビュッフェ利用時にはチケットを提示する必要がある。
 僕は「どうせ規定の時間には開くまい」と思っていたのだけど、意外に6時きっかりにオープンする。すぐに10人~20人程度の行列ができる。僕は階段すぐ下のバーガーキングで待機していたため、早々に入場できた。トースト、チキンソーセージ、バナナマフィンなどをチョイス。


 食後にコーヒーをいただき、30分ほどでビュッフェを出る。まだ5時間近く時間があるけれど、一応搭乗ゲート218番の近くにあるベンチに腰掛ける。
 『地球の歩き方』を読んで、イスタンブール到着後のイメージトレーニングをする。
 予定はこうだ。当日にイスタンブールの街を少し散策して、その日の夜行バスでカッパドキアに向かう。当然、夜行バスのチケットは取っていない。
 空港から街まで行くイメージはできているけれど、当日に出る夜行バスのチケットを取るイメージができない。どこで買えるのだろうか。

 入念なイメージトレーニングの成果で眠くなってきたので、仮眠を取ることにした。
 バックパックを足元に引き寄せて、肩のベルトに両足をそれぞれ通す。これでバックパックが引っ張られたらたぶん気がつくはずだ。安心して目を閉じる。
 ウトウトしかけたとき、隣のベンチに誰かが座る音がして、目を開けると、隣に見知らぬアラブ人の兄ちゃんがいる。僕には知っているアラブ人なんていないけれど。
 空いているベンチが他にもあるのに、なぜ彼はわざわざ僕の隣に座るのだろうか。そして、なぜ手ぶらなのだろうか。バックパックをもう一度引き寄せて、警戒心を一気に高める。そういえば僕は海外に来ているのだった。
 結局その男はしばらくするとどこかへ行ってしまった。僕はこの一件を教訓に、緩んだ気持ちをもう一度引き締める、ついでに目を閉じる。そしてまた寝た。

 二、三度寝起きを繰り返し、ようやく時間になったので搭乗ゲートをくぐる。ざっと見たところ、日本人は4~5人くらい。思っていたよりも少ない。


 イスタンブールまでは約4時間のフライトだ。この飛行機でも"THIS IS IT"を探したけれど、やはり無かった。代わりに『20世紀少年 <最終章> ぼくらの旗』を観る。
 映画の内容はひどいものだったけれど、確かに2時間は潰れたのだから文句は言わない。もう一度"Alice in Wonderland"を観る。
 映画の途中で、飛行機がまもなくイスタンブールに到着するというアナウンスが流れる。定刻よりずいぶん早い。クルーで飲み会でもあるのだろうか。
 飲み会で頭が一杯の機長による、非常に雑な着陸でイスタンブールに到着した。
 降下中の不自然な高度低下で機内が何度かどよめいた。魅せる機長。僕の搭乗経験のなかで最も下手な着陸だった。

 8月21日(土)14時半、イスタンブールに到着。何一つ聞かれることもなく、入国審査を通過する。今回もありがとう、JAPAN PASSPORT。

 さあ、あの到着ロビーにつながるドアをくぐってからが勝負だ。
 『地球の歩き方』でも「初日に現れるイスタンブールの客引き」という項を設けて、偽の空港スタッフによる客引きに注意を促している。
 トイレに寄って、心身ともに万全の体制で到着ロビーへ。柵の向こうにはネームプレートを持った人々が群がっている。さて、この中の何人が寄ってくるだろうか。
 客引きと接触する前に、柵の手前にあるATMへ。相変わらず現金は持っていないため、ここで現金が引き出せないとそもそも客引きに盗られるお金もない。200TL(トルコリラ。1TL≒55円)を引き出した。
 きちんと10TLの小額紙幣も混ざって出てくるあたりが賢いトルコATM。高額紙幣で支払おうとしても、お釣りがなく受け取ってもらえないことが海外では往々にしてある。
 50TLの高額紙幣は財布に、小額はポケットに突っ込んで、歩き出す。オドオドしていると客引きにつけ狙われるので、なるべく堂々と歩き、悠然と案内板を見るように努める。
 その結果として、全員に無視される。誰一人声をかけてこない。いると鬱陶しいけれど、いないと寂しい客引き。悲しいほどスムーズに市街地へと通じるメトロの入り口へ到着した。

 改札口で、財布から「アクビル」を取り出す。アクビルはSuicaのようにチャージして使うことのできる、イスタンブールにある公共交通機関の利用券だ。
 僕はこのアクビルを日本から持参していた。なぜか我が家の三兄妹は全員トルコに行っている。このアクビルは僕の兄から妹へ、そして僕へと引き継がれた由緒正しいアクビルなのだ。
 早速アクビルに10TLをチャージしていると、韓国人のカップルから声をかけられる。
 「ヘイ、ミスター。どこから来ましたか?」
 「日本から。」
 「日本ですか。それ(アクビル)はどうやって手に入れましたか?」
 「日本から持ってきた。これは我が家に代々伝わる逸品じゃ。」
 「Oh...」
 まさかアクビルが受け継がれているとは思わなかっただろう。

 空港から街中に行くには、地下鉄で6駅目のゼイティンブルヌで、トラムに乗り換えるらしい。ホームには既に電車が停まっていた。

 5分ほどで電車のドアが閉まる。このとき、トルコ人も駆け込み乗車をすることを知った。
 ゼイティンブルヌには15分ほどで到着。ここからトラムに乗り換える。どこか乗り換え口かわからなかったけれど、人の流れに身を任せて通った改札が乗り換え口だった。

 トラムに乗り込み、向かい合わせ4人がけの席に座る。斜め前に座っているおっちゃんの膝をノックして、『歩き方』の路線図を見せながら、旧市街の駅スルタンアフメットに行くか聞く。このトラムで良いらしい。おっちゃんに英語でお礼を言って一安心。
 トラムは新しくて綺麗。停車駅に着く前にアナウンスが流れるので、頑張れば聞き取れそうな気がする。
 スルタンアフメットまでは思ったよりも遠く、30分ほどかかった。駅の手前でさっきのおっちゃんが声をかけてくれ、次だと教えてくれた。
 トルコ語で「ありがとう」と言ってみる。
 「テシェッキュレデリム。」
 長い。

 早いうちにカッパドキア行きのバスを確保したかったので、駅近くにあるインフォメーションへ行く。バスのチケットは、歩いて10分ほどのオフィスで買えるとのこと。
 トルコ人の言う「徒歩10分」がどれほどのものなのか不安があったけれど、無事に発見し、カッパドキアのギョレメという街までのチケットを購入した。
 19時にこのオフィスからオトガル(バスターミナル)までのセルヴィス(シャトルバス)が出るから、またここに来いといわれたので、それまで旧市街を歩く。
 またイスタンブールに戻ってくるので、今日はモスクには入らずに、外から眺めるのみ。




 歩いていたらお腹が空いたので、北側のスィルケジ方面まで歩き、ロカンタ(大衆食堂)「Balkan」に入る。ショーケースに並んだ料理を適当に指差して頼んでみる。二品で11.25TL。
 猫まっしぐらの味だ。

 食後はそのままテラス席で日記をしたためて過ごす。
 
 19時10分前にシャトルバス乗り場であるオフィスの前へ。トルコ人が時間に正確だった場合に備えての10分前行動だったけれど、結局迎えのバスが来たのは19時40分だった。
 オヤジのアグレッシブな運転でオトガル(バスターミナルへ)。インド人ほどではないけれど、トルコ人もやたらクラクションを鳴らす。
 シャトルバスで長崎出身の大学生と会う。彼もカッパドキアへ行くらしい。

 カッパドキアへ向かうバスは、日本の深夜バスと比べても遜色ない立派なものだった。途中で水とお茶と軽食が出される。

 道中、トイレ休憩が1時間~3時間くらいごとに取られるのだが、トルコの公衆トイレは有償のため、トイレ休憩のたびに小銭が失われるのが何か解せない。
 先ほどあった長崎の学生にそのことを伝えたら、
 「"No money"って言ったら、"No problem"で行けましたよ。」
 とのこと。
 そんな猿岩石魂で切り抜けられるとは。。

 カッパドキアには翌日の朝に着く予定だ。

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