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2016/10/26

パスタマーケットMに行かずして新江古田を去ることなかれ。

(2017年6月9日追記)「パスタマーケットM」は2017年5月で閉店になりました。
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 この地球上にいる人間の何%が、生きていいるうちに「都営大江戸線新江古田駅で降りる」という僥倖にめぐり合うことができるのだろうか。  もしあなたがそんな幸せな人間のひとりであるならば、「パスタマーケットM」を訪るべきだろう。  「パスタマーケットM」、通称「パスマ」は、新江古田駅から徒歩6分のところにある。二人がけのテーブル席が四つと、カウンター席が四つほどの、とても小さなお店だ。(とは言え、空いている時間帯であれば、ベビーカーも入れてもらえる。)  店名からは、何のお店なのか想像するのは難しいかもしれないが、実はこのお店では、たいへんおいしいパスタを堪能することができる。  メニューには定番のカルボナーラやボロネーゼ、さらにはナポリタンまであるけれど、特筆すべきは日替わりで提供されるパスタだろう。珍しくておいしい野菜が主役のパスタが三種類、ソースも三者三様で用意されている。  ランチタイムには、そんなパスタにサラダとスープがついた、お得なパスタセットを注文することができる。  セットを注文すると、最初にサラダが出てくる。  セットのサラダと言えば、雰囲気先行のイタリア料理店で出される、やたら余白を感じさせる皿の上で、目いっぱいに幅を取るよう広げられた葉っぱに、スポイトで垂らしたような少量のオリーブオイルが降り掛かった一皿を想像されるかもしれない。  ここのサラダは違う。確かに小ぶりではある。しかしながら、薄くスライスされたキュウリで囲まれた円空間には、しっかりとした苦味のあるベビーリーフと、日替わりの野菜がしっかりと存在感を放っている。このサラダになるのならば、刈られた野菜もきっと本望であろう。  サラダが終わると、次いでスープだ。  セットのスープと言えば、ファミリーレストランでおかわり自由として出される、劇物なみ希釈されたコンソメスープの中に、木っ端みじんになったキャベツと、消しゴムのカスのようなベーコンが、ごく稀に浮遊している液体を想像されるかもしれない。  ここのスープは違う。確かに小ぶりだし、おかわりはできないが、自慢の野菜を使ったポタージュは滋味に溢れる。もしこれがおかわり自由であったならば、いかなる聖人であっても自分を律することは難しいだろう。  最後はパスタだ。  パスタの茹で具合は完璧なアルデンテ。ここまで非の打ち所がないアルデンテならば、いっそ僕の歯と交換しても良いとすら思える。絶妙な塩加減はソースと具材との難しい三角関係を難なくこなし、ゲスを極めた乙女であってもこのパスタに感動すること請け合いである。  僕はかつてイタリアを縦断して、ボロネーゼ、ジェノベーゼ、ペペロンチーノといった本場の味を食べ歩いたという経験が一切ないのでよくわからないけれど、きっと本場の味にも劣らないはずだ。  パスタセットはこれで終わりだ。  この店はデザートのレベルも非常に高いのだけれど、今日のところはこれでお会計にしよう。伝票に書かれている金額は、税別850円だ。  都内には、映画でも観られるのかなという値段で、それなりにおいしいパスタを出す店は数多ある。しかしながら、この金額でパスタ・スープ・サラダの三点を、ここまでハイレベルに提供する店は、新江古田広しと言えども、ここしかないのだ。