予期していた通り、マイケル・ジャクソンのカッコ良さは尋常ではありませんでした。
「マイケル・ジャクソン」を構成する要素を見ると、決してカッコ良くは無いと思います。確かにスタイルは抜群に良いけれど、着ている衣装は美川憲一と紙一重だし、顔の造形はやはり不自然です。さらに言えば、ダンスの振り付けも個々の動きは滑稽にさえ思えるものもあります。
それでも、それらがマイケル・ジャクソンとして動き出すと、やはり圧倒的にカッコ良い。「マイケル・ジャクソン」は「カッコ良い」の上位概念であるようにすら思えます。
彼の凄さを感じるのは、ステージ上のパフォーマンス(実際にはリハーサル)だけではありません。この映画はツアーのリハーサル風景を追ったドキュメンタリーであるため、舞台監督やバックバンドと打ち合わせする様子も見ることができます。
打ち合わせの様子で感じた凄さは、彼自身が考える「良いもの」に対するブレが一切ないという点です。「打ち合わせ」と言っても、彼が何かを逡巡して誰かに相談を持ちかけることは、映像上ほぼ皆無でした。
ステージの各要素、演奏に関してはもちろん、舞台装置の動作やCGのカットに至るまで、彼の考える「良いもの」になるように指示や提案を行い、スタッフがそれらに応えていく形がほとんどです。
映画の終盤近くで「観客が求めているのは非日常だ」とさらりと言っていましたが、彼の中で「観客が求めるもの」と「それを実現する方法」が明確に確立されている様子でした。演出上のあらゆることを次々と決めていく姿は頼もしくてカッコ良いです。
こうまでも圧倒的なパフォーマンスを見せられては、約2時間の上映時間中、映画に引き込まれ放しであってしかるべきでしたが、実はそうではありませんでした。途中何度か、思わず別のことに気を取られてしまったのです。
この映画では、もちろん様々な彼の曲が使われていますが、一番印象的なのは予告編などで使われていた『Smooth Criminal』です。
まずはこちらをご覧ください。お急ぎの人は50秒~1分15秒だけで結構です。
体が傾くヤツでおなじみのアレですね。
では、引き続いてこちらをご覧ください。
再びこちらをご覧ください。
眼前のマイケルが、脳裏にいる宿直のオヤジに上書きされてしまいます。
僕は「空耳アワー」をほとんど見ていないのですが、不幸にしてこの回だけは見ていたため、ずっと「宿直」が気になって映画に集中できませんでした。サングラスをかけたマイケルがタモリに見えてしまうという症状に悩まされました。
マイケルも凄いけれど、空耳もまた凄い。
DVDも出るようですが、音響を考えると映画館で見るのをお勧めします。(と言いつつアフィリエイトを貼っておきますが。)
僕のようにマイケル・ジャクソンのことを「ダンスの上手い奇人」としか思っていなかった人も十分楽しめると思います。