しばらくは犬を失った悲しみに打ちひしがれていた我が家だが、そのあたりはご多聞に漏れずに時が何とかしてくれた模様で、今はそのような雰囲気は感じられない。お供え物のペットフードが何かの拍子に落ちたりすると、「犬の祟りだね☆」と言われている。先月まで可愛いペットだったのに、あっという間にタタリ神様になってしまった。アシタカは助けに来てくれるのだろうか。
ところで一部では有名な話だが、先日御隠れになった愛犬ロンは、実は二代目である。十数年前に同じくシーズー犬の初代ロンが我が家にはいた。初代はぶちの色が黒で、オスだった(二代目はメス)。折角なので初代の最期についてもここに記しておこうと思う。
初代がまだ3歳のときだった。ある日、珍しく我が家に犬を連れた客人がやってきた。メスの可愛らしい犬で、初代は若さゆえの興奮を押さえきれずにいた。その姿は初代というよりもむしろ初号機と呼ぶにふさわしいとある歴史家は記している。だがそんな初代の奮闘もむなしく、邪知暴虐の飼い主により二匹は引き離されてしまった。
ジュリエット(仮名)が帰った後も興奮冷めやらぬ様子の初代をなだめるため、飼い主は散歩に連れ出すことにした。愛用の赤いリードをつけて、玄関の扉を開けたその刹那、初代は脱兎のごとく駆け出した。犬のくせに。
初代の情熱はリードよりも赤々と燃え上がり、その躰は垣根を貫き、ただ愛を求めてひたすらに短い足を振り回した。飼い主の声は遥か後方に消え、幾つもの電柱が現れては消え、そうして短いブレーキ音が彼の最期を告げた。
こうして初代はその短い生涯を終えた。ちなみに戒名は「百一度目告白武田鉄矢居犬」であったという。