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2008/09/23

星空を欲しがる神様

 昔々この宇宙の歴史が始まる少し前、神様たちが集まってそれぞれが担当する星を割り振っていました。その話し合いが終わると、神様たちは一斉に散って行き、この宇宙の歴史がはじまったのでした。
 神様のうちの、地球(と呼ばれることになる星)を割り当てられた神は、この星を他のどの星よりも美しいものにしたいと考えていました。
 そのために長い時間をかけて、星を熱したり冷ましたりして、最初は茶色い岩の固まりだったこの星を誰も見たことのないような青色に染め上げました。
 神様はこの星の出来映えに大変満足しました。はるか彼方から星の青さをひとしきり愛でると、次にはより近づいて青の中に散りばめられた彩りを楽しむのでした。
 神様はその日も天高くから、朝日に輝く深緑や目映く光る川面や夕焼けに染まる大地を眺めていました。やがて地球が太陽から顔を背けると、どの色も暗闇に沈んで行きました。神様は暗闇に沈んだ色をより近くで見たいと思い、初めて地上に降りてみることにしました。
 森の中に降り立った神様は、初めてその足にひんやりした草の感触を感じました。神様は踏みしめるようにして森の中を進んで行きました。ただ闇の中では全ての色が黒く塗りつぶされてしまい、せっかくの色彩を楽しむことができません。自分の作ったこの星の美しさが太陽なしでは成り立たないことを知り、それが少し損なわれたような感じがしました。
 そんな思いで神様が暗闇の中たたずんでいると、梟が一羽神様の前を横切り、すぐ近くの木のてっぺんにとまりました。梟を追って目線を上にやった神様は、思わず息を飲みました。
 そこには満天の星空が広がっていました。瞬く星の数は神様ですら数えきれないように思われました。
 それまで神様は自分の星を見下ろすことはあっても、空を見上げたことなどなかったのでした。神様は星空を見て、この光を是非とも自分の星にも持たせたいと思いました。太陽の光が無いときには、夜空と地上で無数の光が瞬く光景を作り上げたいと考えたのでした。
 地上に光を与えるには、そこに火を与えてやる必要があります。それまで神様は動物たちに火を使うことを許していませんでしたが、神様は新たに人間という動物を造り、彼らに少しばかりの火と知性とを与えて地上に放ちました。
 他の動物たちが夜は闇に紛れて寝静まる中、人間の作り上げた都市は夜の間も光々と輝いていました。彼らはほんの少しの間で爆発的にその数を増やし、すぐに彼らの光が地上を覆い尽くすようになりました。
 地上に煌めく無数の光に満足した神様は、再び地上に降り立ちました。地上の光と夜空の光を見比べようと思ったのでした。
 しかし、神様が見上げた空には、もうあの日の星空はありませんでした。
 濁った空には、まばらな星が霞んで見えるばかりになってしまっていたのでした。