あまりにも見事な転がり振りに、僕はピエロの玉乗りを見るような気持ちでしばしその行方を見守っていた。およそ道化には似つかわしくない、全身茶色の衣装に身を包んだピエロ(昭和四十八年生まれ)は、たった一人の観客を置き去りにするようにして、灰色の地面を転がっていく。30センチ、1メートル、2メートル……。ピエロは小石や枯葉の間をすり抜けて、ついには歩道の切れ端にまで到達しようとしていた。
歩道の車道の間に横たわる絶望的な段差を見て、ショーの終焉を予感しない観客がいただろうか。そこはテントの外側であった。ピエロはテントの中でしか生きられない。
その時、ピエロが飛んだ。段差に向けての下りで勢いを増したピエロは、歩道の端で踏み切って思い切りジャンプしたのであった。空中ブランコだ。テントの外へ飛び出したピエロは、道路に横たわるシマウマの上を転がっていく。
そこでショーは突然幕を閉じる。ピエロは轢死した。
僕は信号が変わるのを待って十円玉を拾い上げた。あれほど見事な曲芸を見せたピエロも、今はただの汚れた十円玉になっていた。サーカスの観客はただ一人。この十円玉の価値を知るものは誰もいない。この硬貨は十円の価値でしかない。
自動販売機の前まで戻り、十円玉を放り込む。そこで僕は観客がもう一人いたことを知った。
ーー投入金額 100円
と言うわけで、平等院に行ってきた。
平等院鳳凰堂は、思っていたより小さかった。十円玉よりは大きかったが。
ところで平等院の博物館「鳳翔堂」は素晴らしい。普段寺にある展示物なんぞは全て流し見る程度なのだが、鳳翔堂の展示は全てじっくり見てしまった。
建物の造りはなんともモダンでお洒落。どこで吉永小百合がテレビを見ていてもおかしくないのだが、建物の大半が地下にあって景観を損ねないように考えられている。
館内で上映されているごく短いビデオは必ず見るべし。CGで再現された鳳凰堂内部の様子は圧巻。「極楽いぶかしくば宇治の御寺をうやまえ」という平安の人の気持ちが分かる。極楽のためなら死ねる。
国宝「鳳凰」も間近で見ることが出来るし、「雲中供養菩薩」も壁に配置され、まるで堂内にいるよう。光の具合が良くて、仏像が神々しく見える。果たして仏像が神々しく見えていいのかは知らないが。
鳳翔堂で十分に想像力をドーピングした上でいざ堂内に入ろうと思ったら、既に受付終了。混雑のため早めに終了した模様。
次は藤の花が咲く5月くらいに来てみたい。