このブログを検索

2008/07/23

ライオンの飲み会

 昔々、まだライオンが百獣のうちの一種に過ぎなかった頃、彼は季節の変わるごと、仲の良かったキツネや、ウシや、キリンと一緒に飲み会を開いていました。キツネは話が上手く常に話題の中心でした。ウシは飲みすぎに効くとかいって、結局牛乳だけでお腹一杯になっていました。キリンはみんなの話が良く聞き取れませんでしたが、店員を呼ぶのに便利でした。
 あるとき、百獣の王を選ぶ選挙が行われ、キツネ達の推薦で出獅子したライオンが激しい予備選挙と本選挙の末に選出されました。キツネやウシやキリンはこれをたいそう喜んで、ライオンを祝福しました。
 ライオンが百獣の王になってからも、皆の友情は変わらぬままでした。唯一変わったことといえば、定例の飲み会に参加する動物の数が増えたことでした。カバやフラミンゴやフクロウを始め、殆どの動物がこの飲み会に参加するようになりました。カバは大酒飲みで、フラミンゴは飲む前から赤く、フクロウは二次会にならないと起きませんでした。ライオンは動物たちが仲良くすることを歓迎し、回を重ねるごとに大きくなる規模を喜びました。
 そしていつからか、全ての動物がこの飲み会に参加するようになりました。そして、一旦全ての動物が参加するようになってからは、どの動物も一度たりとも欠席することはありませんでした。
 この状況にライオンは一抹の不安を覚えました。ひょっとしたら、みんな嫌々参加しているのではないかと。単なる内輪の楽しみに過ぎなかった飲み会が、自分が百獣の王になったがために強制力を持ってしまっているのではないかと思うようになりました。
 それからライオンは、何度と無く他の動物たちに、飲み会が強制ではないこと、他に用事があれば欠席して構わないことを伝えましたが、それからも、飲み会には一匹の欠員も出ませんでした。
 ライオンは次第に不安になります。最初は自分の権威が他の動物たちに強制をしているのではないかと思っていたものが、今度は、他の動物たちが自分に同情して参加しているのではないかと思えてきたのです。百獣の王である自分が主催の飲み会に箔をつけるために、一応参加しておく。皆のせせら笑いが聞こえるようでした。
 ライオンはある夜、ねぐらである洞窟にキツネを呼んで自分の悩みを打ち明けました。そしてこの状況を何とかして欲しいと頼みました。しかしキツネにはどうすることも出来ません。キツネは皆が参加しているのはしんからライオンを慕っているからであって、強制や同情が理由で無いことを伝えましたが、ライオンは全く取り合いません。キツネも終いには諦めて、僕にはどうすることも出来ないといってそっぽを向いてしまいました。
 ライオンはキツネにひどく腹を立てて、「百獣の王に向かって失礼だぞ!」とキツネを怒鳴りつけました。この言葉にはキツネも、ライオン自身もひどく驚きました。ライオンは慌てて言葉を次ごうとしましたが、何も言うことができないうちに、キツネは洞窟を出て行ってしまいました。
 それからもライオンの飲み会には、全ての動物が参加し続けました。しかし、キツネだけはもう姿を見せることはありませんでした。