��2月25日は、一夜にして夢がかなう特別な日だった。その朝、僕の夢は赤い包装紙に包まれていて、すぐにはその姿を現さなかった。僕はあふれんばかりの期待と少しだけ混ざり込んだ不安とでつんのめりながら紙を開いていき、そして僕の夢を自分の手の中におさめた。
夢がかなって二日後、そのゲームは、年明けを待たずして動かなくなってしまった。
��7日の昼下がり、父は芝刈りに、母は洗濯に行って家には誰もいなかった。僕はひとり、一心不乱に落ちてくるブロックを積んでは消し、消しては積んでいた。だが突然、ブロックどころか画面が消えてしまったのだ。色々試してみたがどうにもならず、親が帰ってくるまで待ちきれなかった僕は、説明書に書いてあった電話番号に電話をかけてみた。
電話口には最初女性が出たが、内容を告げると若い男性が代わって話してくれた。
僕は彼に言われたとおりに、電池をかえてみたりスイッチを入れなおしたりしてみたが電源は入らない。やはりどこか故障しているようだという結論になり、僕は直してくれるよう頼んだ。だが、彼が言うには、買って間もないようなので買ったお店で交換してもらえるということだった。
それに対して、僕がこれはサンタクロースにもらったものだから買ったお店は無いことを告げると、彼はしばらく黙ってこう言った。
「……おうちの人に頼んで、保証書っていう紙にスタンプで押してある電話番号にかけてもらってね。」
とても親の帰りまで我慢できなかった僕は、箱の中にあった保証書を探し当て、そこにスタンプが押してあるのを発見した。上の方はアルファベットで読めなかったが、確かに電話番号らしき番号が並んでいる。
僕はこれがサンタクロースの電話番号であることを確信した。上のアルファベットは「サンタクロース」と書いてあるに違いない。そしてこれは子供に教えちゃいけない番号だから、さっきの人は誰かにかけてもらうようにいったのだろう。僕はプレゼントを手にしたとき以上の興奮で、押してある電話番号をダイヤルした。
プルル……1コールもしないうちに電話がつながると、僕は興奮を抑えきれずに声を張り上げた。
「もしもし! サンタさんですか!?」
数秒の沈黙の後、電話口から声がした。
「あぁ、そうだよ。君は?」
僕はサンタと話せた喜びと驚き、そしてサンタが僕の事を聞いてくれた喜びで自分の名前から住所から好きな食べ物から何から何まで全てを早口でまくし立てた。サンタはゆっくりとした低い声でそれを受け止めて、そして僕に用件を尋ねた。
僕はこれまた早口にこれまでの経緯を話し、最後にプレゼントのお礼を言った。サンタは同じようにゆっくりと受け止めると、ゲーム機を交換することを僕に約束してくれた。そして、そのためのルールを僕に告げた。それは、僕が寝ている間に交換するというものだった。
僕は最初サンタに是非会いたいからと昼間来てくれるように頼んだが、その時間は外国が夜なので外国にいて無理だということだった。また、今夜は家族で祖父母の家に泊まるからその間に交換しておいて欲しいとお願いしたのだが、家に誰もいないと不法侵入で執行猶予付きとはいえ有罪になってしまうからそれも出来ないということだった。
この機に、僕はサンタに色々質問をし、様々なことを知った。サンタは大人には見えないこと。トナカイは鹿じゃないこと。クリスマスが終わっても年末は、僕のようにプレゼントの交換をしなければいけない子供のところにいくためにものすごく忙しいこと。
サンタは明日の夜に交換することを約束すると、最後にもう一度僕の住所を確認し、電話を切った。
僕はさっきまでとは違う理由で親の帰りを待ちきれず、帰ってくると早速この話をし、夜に訪ねた祖父母にも同じように話した。皆僕が秘密の電話番号を知っていることに驚いていて、僕は鼻高々だった。
そして約束の夜、僕は中々寝付けなかったのだがいつしか眠りに就き、そして目を覚ますと新品のゲーム機がそこにはあった。僕はすぐにお礼の電話をかけようと思ったが、サンタがとても忙しいと言っていたことを思い出し、また年が明けてからにすることにした。だが、僕は結局お礼の電話をかけるのを忘れてしまった。
翌年の夏のある日、再び電話のことを思い出したときには、スタンプで押してあった電話番号もいつの間にかかすれて消えてしまい、ついに番号もわからなくなってしまった。
惜しいことをしたと今でも思う。