彼は毎朝8時に起きてそのことを考え、答えの出ないまま、晩の12時になると眠りに就いた。
そんなある日、彼は一つの仮説を立てた。
僕は毎日8時に起きて、12時に寝ている。つまり一日16時間も起きているのに、たった8時間しか寝ていないんだ。そんな生活をしていたら、疲れ果てていつか死んでしまうのも道理だ。
睡眠時間と活動時間をイコールにすれば、いつまでも生きていられるはずだ。
翌日から彼は、毎朝8時に起きて毎晩8時に寝るようにした。
彼の仮説は正しかった。
彼はその後何年も何十年も変わらぬ姿のままであり続けた。
彼の家族や友人や愛犬がぽつりぽつりと去り行くのを彼は変わらぬ姿で見送った。
彼が変わらぬ姿のまま、100を超える齢を重ねようとしていたある年に、彼は結婚をした。
彼はこの幸せを噛み締め、それがいつまでも続くことを願った。
彼は美しい妻に自分と同じ生活をするよう薦め、彼女もそれを了承した。
夫婦は毎朝8時に起きて、妻は毎晩8時に眠りに就いた。だが夫が眠りに就くのは9時だった。横にいる妻の寝顔を眺めるのが彼の楽しみだった。
やがて妻も夫が起きていることに気付き、彼女もまた夫の寝顔を見るために、早く起きたり遅く寝たりするようになった。
彼らに子供が出来た。
子は12時間よりももっと寝たが、夜泣きのため夫婦が12時間寝ることは難しかった。
だが、夫婦にとってそれはもはや重要では無かった。
夫はしばらくして死んだ。
結婚してからというもの、長く眠ることは難しくなっていたが、起きている間大抵は幸せだった。
死の直前、彼はもはや「人は何故死ぬのか」について考えてはいなかったが、自分が生きた理由はわかった気がした。