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2010/07/25

『トイ・ストーリー3』 おもちゃの世界に引きなおされる「線」

 『トイ・ストーリー3』を観てきました。
 事前に漏れ聞こえてくる情報では「泣ける映画」とのことでしたが、実際に観てみると笑いどころのほうがはるかに多くて、非常に楽しむことができました。
 さて、CMなどでご存知かと思いますが、今回のメインテーマは、おもちゃの持ち主であるアンディが成長したとき、おもちゃたちがどうするのかという点にあります。
 物語の中では、おもちゃたちが住む世界が様々な「線」で切り分けられていきます。その展開がとても面白かったので、以下に記したいと思います。
 以下はネタバレです。


 冒頭でおもちゃたちは何とかアンディに遊んでもらおうと作戦を展開します。この時点で彼らの中にある「線」は、「アンディに遊んでもらう/アンディに遊んでもらえない」の間にあります。
 しかし、大学生になろうとしているアンディに遊んでもらうのは流石に無理。逆に遊んでもらえたらちょっとアンディ危ないよねってことで、彼らはアンディに遊んでもらうことをあきらめます。
 これにより彼らの中にある線は、「アンディに遊んでもらえない」の中にある「捨てられる/捨てられない」に移ります。怯えるおもちゃたち。ここで結構重要な事件が起こります。
 引越しを控えたアンディはおもちゃを含めた部屋の荷物の仕分けをはじめます。仕分けの区分は以下の三つ。「大学へ持っていくもの」、「屋根裏にしまうもの」、「捨てるもの」。するとアンディは、ウッディだけを「大学」へ入れ、その他のおもちゃは「屋根裏」に仕分けます。
 まさかの新展開。これまで「僕たちおもちゃはどうなるの?」だったものが、「大学へ行くおもちゃ」と「屋根裏へ行くおもちゃ」に。僕らの間に唐突に引かれた「線」。
 ということでここでおもちゃ内でもめごとが起きても良さそうなものだけど、大団円をむかえるはずの「3」で今さら仲間割れはちょっと……ってことで、その点は意外とスルー。ちょっとした手違いで屋根裏組が捨てられそうになりそれどころではなくなります。

 ここからの脱出劇からの流れで、おもちゃたちは託児所に連れて行かれる。そこでおもちゃたちは新たな世界に出会う。
 託児所ではどうやら遊んでもらえるらしい。冒頭であきらめたはずの、「アンディに遊んでもらう」の「アンディに」と「遊んでもらう」の間に「線」を引けば、また僕らは遊んでもらえる。まさかの大逆転。
 しかし、本当にそこで線を引いてしまってよいのだろうか。悩むおもちゃたち。ここでおもちゃたちの「線」は「アンディのものであること」と「おもちゃであること」の間にある。「アンディに遊んでもらえるか否か」で生きてきた彼らにとっていきなりの異次元。「アンディが先がおもちゃが先か」それが問題だ。
 ウッディは前者の立場をとる。足の裏を見ろ、名前が書いてある。だけど屋根裏組は後者寄りだ、手違いで捨てられそうになったのも影響している。ここで袂を分かつウッディと屋根裏組。

 ウッディは託児所を脱出する途中で、期せずして託児所に通うボニーの家に行くことになる。久々に遊んでもらえるとやはり楽しい。けれどやはりアンディの元に帰ろうとする。するとボニーの家にいるおもちゃから聞かされる事実。あの託児所はヤバイ。

 託児所に残った屋根裏組は、託児所の「いもむし組」に割り当てられる。年少の子どもたちはおもちゃを叩きつけ投げつけ踏みつける。これはたまったものではない。お隣では「ちょうちょ組」のおもちゃたちが楽しそうに遊んでもらっている。ここで彼らは新たな世界の存在を知る「おもちゃが喜ばない遊びかた」がこの世にはある。「遊ぶ」の中にも「線」が引けるなんて。
 この「線」を知ることで彼らが発見したのは、「アンディの優しさ」よりも「おもちゃとしてもプライド」。なぜなら彼らが最初にしたことは、「ちょうちょ組」への編入依頼であり、アンディの元へ帰ることではないから。まぁ目標は手近なものから立てるのが正しいけれども。
 「ちょうちょ組」への編入は却下される。どうやら託児所のおもちゃを仕切っているクマは悪いやつらしい。これはまずいよねってことでウッディが助けに来る。
 「いもむし組」の皆さんとしては、「ちょうちょ組」に行ければ良いわけだから、クマを倒して体制を変えればそれでよいけれど、クーデーターは映画的にちょっと地味というか反社会的だよねってことで、そこから脱出することに。

 それから紆余曲折あって、焼却炉向かって徐々に滑り落ちることになったウッディ含むおもちゃ一行。色々やったけど、さすがにちょっと厳しいよねってことでみんなあきらめムード。

 そして炎に飲まれそうになりながら、おもちゃたちは手をつなぐ。

 これは感動的。

 遊んでもらうことと切り離され、大学/屋根裏で切り離され、アンディと切り離され、「遊び=幸せ」という世界からも切り離された彼らがみんな手をつないで一つになる。焼却炉で一つになる前に、彼らはせめて自分自身の意思で一つになる道を選んだ。

 焼却炉で燃えて終わっちゃうと色々問題があるので、当然脱出してアンディの家に帰るおもちゃたち。「大学」の箱に入るウッディと、「屋根裏」の箱に入る屋根裏組。
 アンディは大学に引っ越す道すがら、屋根裏組をボニーの家に寄付しに行く。箱を開けると、大学組のはずのウッディもそこにいた。いざとなったら売って学費の足しにしようと思っていたウッディが入っていてびっくりのアンディ。
 一瞬躊躇したアンディだったけれど、「ウッディは友達を決して見捨てない」から、そのままボニーに渡す。そして最後にボニーと一緒になっておもちゃで遊ぶアンディ。子どもと一緒なら遊んでも大丈夫だアンディ。
 最後にもう一度アンディと遊んでもらえたことで、自分たちがいつまでもアンディの友達であることを理解したおもちゃたち。
 「アンディのものであること」と「ボニーに遊んでもらうこと」は両立できるんだね。アンディと離れてしまえば引かれると思っていた「線」は、実は存在しなかった。
 めでたしめでたし。