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2009/06/26

昨日見た夢の話

 珍しく夢の内容を覚えたまま起きた。

 会社の先輩と二人で歩いて家に帰っていた。出発点は自分の家だったのだが、とにかく目的は家に帰ることだった。
 家から200メートルほど離れたところにある下り坂の途中で、先輩が顔をしかめていたのでどうしたのか聞いてみると、トイレに行きたいとのこと。坂の下に交番があるので、そこに先輩を案内した。交番といってもそこは市役所の窓口ぐらいの広さがあって、ガラス張りだった。
 先輩を待つ間、時間をもてあますところだったが、運よくそこの交番が旅行代理店も兼ねていたので、パンフレットを見て時間をつぶすことにした。だが、ガラス張りのカウンターの下に並べられたパンフレットは取り出し口がカウンターの向こう側にしかなく、見るには向こう側にいる女性店員(警察官?)に頼む必要があった。
 彼女に声をかけると、問答無用でマークシートと鉛筆を渡された。マークシートはA3くらいのサイズで、それだけの大きさにもかかわらず、マークする欄は3つしかなかった。もっとも、その欄が馬鹿でかくて空きスペースはあまりなかったが。
 そのマークシートが、自動車免許の更新に必要な書類であることを僕は知っていた。まだ更新の時期ではないため、その書類を突き返すと、パンフレットを受け取ることも先輩を待つこともあきらめて、交番の外に出た。ちょうど交番も8時で閉店する準備を始めていた。
 外に出ると、交番の前に一本のシャワーが囲いも何もなしに立っている。銀色に光るステンレスの棒が地面から伸び、2メートルほどの高さで頭をたれ、そこにシャワーヘッドが付いている。僕はそこでシャワーを浴びると、いつの間にか足元にあったブルーのバスタオルで体を拭き、そのあとにそれを腰に巻いた。
 交番の道を挟んだ向かい側には宅配ピザ屋があった。交番とピザ屋の間の道路にシャワーはあったのだ。そのピザ屋の駐車場を見ると、よく見る宅配用の三輪バイクと一緒に、一台のタクシーが停まっている。何を隠そうそのタクシーは僕のものである。本来タクシー運転手である僕の車がそこに停まっていた。
 だが、最近全く乗っていなかったため、車全体を覆うようにして緑のツタが絡まっていた。そしてそのツタが地面に伸びて、やがてアスファルトを覆い、どこからか芝生となって辺りに広がっている。その芝生の上では、二十歳前後の若者がピクニックを楽しんでいた。彼らのうちの何人かは、僕と同じように、シャワーを浴びたようだった。彼らの方にはブルーのバスタオルがかかっている。
 思い思いに芝生に寝転がっている彼らの間をなんとなしに歩いていると、一組の男女が座り込んで、芝生の上に置いた鞄から、財布や携帯電話を取り出していた。そしてそれは僕の鞄であり、僕の財布であり、僕の携帯電話であった。
 主に鞄をあさっていた女は、僕と目が会うと、「しまった」というようにその動きをはたと止めた。女は色黒で茶髪で、いかにも軽薄な、善悪より先にノリの良し悪しで物事を判断するような人間に見えた。
 自分の鞄を取り返すと、僕は女の腕をつかんで立ち上がらせた。そのまま交番に連れて行くつもりだ。周りを見ると、一緒に鞄をあさっていた男も、芝生に転がっていた人間も皆こちらを見ていた。どの眼にも何の感情も見えなかった。非難も同情もなく、ただ今から起こることをただありのままに見ている眼がそこにあった。
 僕は自分の感情が高ぶるのを感じた。腹から出てきた声は喉に何度もつっかえたあとに、震えながら飛び出した。
 「なんで止めないんだよ。」
 彼らはまだこちらを見ている。僕は眼が潤むのを感じながら、さっきより強く震える声で言った。
 「なんで止めないんだよ。人のものを盗もうとしているのを見てたなら、何で止めないんだよ。……見てないなら、何で止めないんだよ。見てないんだったら、友達が連れて行かれそうになっているのに、なんでそれを誰も止めないんだよ。」
 言い終わったときには周りはすっかり滲(にじ)んで見えなくなっていたけれど、彼らも泣いているのがわかった。何も読み取ることのできなかった眼は消えうせ、全身から彼らの感情がほとばしっていた。
 僕はその女を交番に突き出した。