実は僕にとって美術館は非常に疲れる場所である。それには純粋に体力的な要因ももちろんある。展示が複数の階にわたるような大きな美術館は、その中を歩き回るだけで疲れてしまう。だがそれ以上に、精神的に疲弊してしまう面がより多いように思える。
美術館にいると非常に緊張を強いられるように感じる。絵画を前にした僕は、まず画家の名前を見て、それが名画であることを確認したうえで絵を眺める。
その絵が色彩豊かな風景画や荘厳な宗教画であったりするとありがたいのだが、そうではなく、見知らぬおっさんの肖像画であったり机の上の果物だったりすると一大事である。
僕は自分の中に眠っているはずの審美眼を叩き起こし、その絵画が評価されてしかるべき要素を探し出さなければならない。そして多くの場合それは徒労に終わる。無理矢理に「ここのタッチが……」などと考えてみたところで、実のところ達也と和也の区別をつけるのが僕には精一杯だ。
土曜日の国立近代美術館でも同様であった。前半の写真展はまだしも、後半の常設展は完全に息切れしてしまったのだ。
この美術館との関係を改善すべく、日曜の朝に図書館へ行き『五感で恋する名画鑑賞術』という本を借りた。そしてそのままブリジストン美術館へ向かい、道中の電車でその本を読んだ。
結果、僕は土曜日よりもずっと美術館を楽しむことができた。むしろ毎週くらいに美術館に行きたくなった。この本の中には、「美術鑑賞の極意10」が載っているのだが、それを受けて僕なりの美術館を楽しむ手順を以下に記す。
▼まず館内を一周して、自分の「好きな」絵に目星をつける。
▼二週目にその絵をじっくり見て、作品名と作者をチェックする。
▼自分がその絵を好きな理由を考える。
▼資料室でその作品および作者について調べる。
▼椅子に座ってその絵を見る。
▼(体力があったら)他の絵も見る。
▼好きな絵のポストカードを買って帰る。
▼近くのカフェに寄り、ポストカード片手に作品を反芻しながら、そんな自分に酔う。
ポイントとしては二点。
まず、絵の良し悪しではなく、好き嫌いで判断するということ。思えば、僕のような物事をするにあたって善悪より好悪が先立つような人間においてさえ、絵画については良し悪しで判断しようとしてしまうのだから妙なものである。
もう一つは、好きな絵のみに注力すること。美術館にある全ての絵が自分好みであるとは限らないし、それはそのときの気分に左右されることも多いので、興味を惹かれない絵は捨てる。
これを意識することで僕は週末の美術館をとても楽しむことができた。
だから、月曜日に「週末何してたの?」と誰からも聞かれなかったとしても、そんなことはなんでもない。人は皆、興味を惹かれないものは捨てて生きていくのだから。
ブリジストン美術館は、展示スペースも広すぎず、それでいてミーハー心を満足させる有名どころの作者を多く取り揃えているので非常にオススメ。
東京国立近代美術館
ブリヂストン美術館 | BRIDGESTONE MUSEUM OF ART