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2007/08/06

部屋に蚊がいる

以前の戦いから数週間。
部屋に再び蚊が侵入した。

恐らく以前仕留めた蚊の家族だろう。背格好が良く似ている。
あの日以来ずっと復讐の時を窺っていたわけだ。
そして僕が布団を取り込むタイミングでこの部屋に入り込んだ。

日曜の夜、僕は敢えて奴を泳がしておいた。
ひょっとしたらあいつはオスかもしれないからだ。
以前にも触れたが、基本的に血を吸うのは卵を産むメスの蚊のみである。
オスの蚊が血を吸う可能性は間寛平と同程度しかない。
にも拘らず多くのオスの蚊が殺されている現状を踏まえ、僕はこれ以上冤罪事件を増やさぬよう、一晩様子を見た。

そして月曜の朝。
起きてすぐ、無意識に左ひじに右手が伸びる。
この腫れ、このかゆみ、間違いない。奴はメスだ。
これで心置きなく仕留めることができる。
奴が卵を生む前にカタをつけてやろう。

だが……奴がどうしても産むといったらどうしよう。
彼女は言う。
『私は絶対に産む。誰がなんと言おうと絶対に生むわ。』
僕は言う。
「落ち着けよ。今産んでどうするって言うんだ。僕はまだ生活だって安定しているわけじゃないし、先が全然見えて無いんだよ。」
『先のことなんて何だっていいわ。今ここに命があるのよ。あなたと私の。血を分けた子供を前にして、何とも思わないの?』
「確かに血は分けたけど……でも、僕はまだ父親になるなんて考えられないよ……」
『何が「考えられない」よ! じゃあ、昨日の夜は何も考えてなかったって言うの?』
「昨日は君が勝手に……」
『勝手にですって? 女の子を布団と一緒に部屋に引きずり込んでおいて、勝手にですって? 信じられないわ!』
「いや、あの時は女の子かどうかなんてわからなかったし……」
『性別もわからずに部屋に連れ込んだって言うの? 尚更ひどいわ! この獣! 虫けら!』
「虫は君だろ……」
『黙りなさい! なんにせよあなたには責任があるわ! 腹くくりなさいよ! 男でしょ!』
「あぁ……」
『ねぇ、お願いよ。あなたの血を分けた子供なのよ。二人で大事に育てていきましょうよ。大丈夫。きっとうまくいくわ。私が保証する。』
「そうかなぁ……」
『そうよ。あなたはこれまでどおり外でお仕事を頑張ってくれればいいわ。中のことは私がするから。ね。』
「そっか……そうだな、君の言うとおりだ。」
『えっ……』
「折角授かった命だし、二人で育てていこう。」
『あなた……』
「ハハハ……あなたなんて呼ぶなよ。照れくさいじゃないか。」
『何言ってるのよ。もうすぐパパなんだから。』
「パパかぁ。実感無いなぁ。」
『そのうち嫌でも沸いてくるわよ。』
「そんなもんかな。」
『そんなものよ。 ねぇパパ?』
「うん?」
『実はあたしのお腹の中にある命は一つじゃないの。』
「えっ、てことは双子かい? こりゃあいきなり大変だな。」
『ううん。300つ子なの』