とても貧しいおうちの子でした。
みぃちゃんちのお雛さまは、
とっても小さくて、
お内裏さまと二人きりで、
しかもジャージを着ていました。
それほどまでにみぃちゃんのおうちは貧しかったのです。
毎年ひな祭りがくるたびに、おとうさんは、
「みいちゃん、ごめんね。もっと立派なお雛さまがいいよね。ごめんね。」
と言いながら、そのお雛さまを飾るのでした。
みぃちゃんは、お雛さまのことよりも、謝りながら飾り付けるおとうさんが悲しくって、
いつもこう答えるのでした。
「ううん。いいの。だって、このお雛さまはみぃとおんなじかっこをしてるんだよ。
これはみぃのお雛さまなんだよ。」
そして今年のひな祭り。
みぃちゃんはこの一年で少しだけ背が伸びました。
もうお雛さまがしまってあるところに手が届きます。
みぃちゃんは、おとうさんが謝らないでいいように、
自分でお雛さまの飾り付けをはじめていました。
そこにおとうさんが息を弾ませて帰ってきました。
「みぃちゃん、もうそのお雛さまはいらないんだよ。
おとうさんがもっといいのを買ってきたんだよ。」
おとうさんはこう言うと、脇に抱えていた箱をみぃちゃんに差しだしました。
みぃちゃんは箱を開け、ガラスケースに入ったお雛さまを取り出しました。
「わぁ……きれい」
それはみぃちゃんがこれまで見たこともないようなお雛さまでした。
黒色はどこまでも深くって、冬の夜空のようでした。
そして、白い筋模様が三本、流れ星のように通り抜けています。
そう。新しいお雛さまは、アディダスのジャージを着ていたのでした。